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二十四詩品 十九 がい

  • 悲概 … 詩風が悲壮で憤り嘆くこと。悲憤慷慨。
  • 摧・來・灰・才・哀・苔(平声灰韻)。
  • ウィキソース「二十四詩品」参照。
大風捲水、林木爲摧。
大風たいふうみずき、林木りんぼくためくだかる。
  • 捲水 … 波を巻き上げる。
  • 林木 … 林の樹木。
  • 為 … ~される。受身の意を示す。「被」と同じ。『三国志』魏書・武帝紀に「たいりゅうためあたらる、ところうまきずこうむる」(太祖爲流矢所中、所乘馬被創)とある。「為~所…」は、「~がために…らる」と読む。ウィキソース「三國志/卷01」、国立国会図書館デジタルコレクション『三國志65卷』参照。
  • 摧 … 砕く。折れて崩れ落ちる。
適苦欲死、招憩不來。
まさくるしみてせんとほっし、いこいをまねくもきたらず。
  • 適苦欲死 … ちょうど苦しんで今にも死にそうになる。二家詩品本では「意苦若死」に作る。
  • 適 … 「まさに」と読み、「ちょうど」「ぴたりと」と訳す。前後の状況がよく合う意を示す。『漢書』東方朔伝に「此れまさに以て明らかに其の権変を知らずして、終に大道に或えるに足れり」(此適足以明其不知權變而終或於大道也)とある。ウィキソース「漢書/卷065」、国立国会図書館デジタルコレクション『漢書評林』参照。
  • 欲 … 「ほっす」と読み、「今にも~しようとする」「今にも~になりそうだ」と訳す。未来の意志・状態を推量する意を示す。ここは、「~したいと思う」の意ではない。
  • 招憩 … 呼んで休息させること。「憩」は、休むこと。李白「じゅうてつこうしゅう刺史ししりょう天竺てんじくあそぶ」に「むしろけてほうきゅうしのぎ、なみしょうろういこう」(掛席凌蓬丘、觀濤憩樟樓)とある。「従姪」は、いとこの子。ウィキソース「與從姪杭州刺史良遊天竺寺」参照。
百歳如流、富貴冷灰。
ひゃくさいながるるがごとく、ふう冷灰れいかいのごとし。
  • 百歳 … 百年の歳月。転じて、長い年月。人の一生を指す。
  • 如流 … 流れる水のようである。あっという間に過ぎ去ってしまうことの喩え。
  • 富貴 … 富があり、身分も高いこと。
  • 富貴 … 火の気のなくなった冷たい灰。
大道日喪、若爲雄才。
大道だいどう日〻ひびうしなわれ、たれ雄才ゆうさいたる。
  • 大道 … 世の中の道徳。世道。
  • 喪 … 二家詩品本では「往」に作り、「往一本作裘」との注がある。
  • 若 … ここでは「誰」の意。
  • 雄才 … 優れた才能を持った人物。
壯士拂劍、浩然彌哀。
そうけんはらい、浩然こうぜんとして弥〻いよいよかなし。
  • 壮士 … 意気さかんな若者。
  • 払剣 … 剣を抜いて憤り嘆くこと。
  • 浩然 … 大らかな道徳的勇気を持っている様子。
  • 弥 … いよいよ。ますます。より一層。
  • 哀 … 悲しみ憤る。
蕭蕭落葉、漏雨蒼苔。
蕭蕭しょうしょうたる落葉らくようあめ蒼苔そうたいらす。
  • 蕭蕭 … ここでは枯葉が物寂しく舞い落ちる音の形容。杜甫「登高」に「へん落木らくぼく蕭蕭しょうしょうとしてくだり、じんちょうこう滾滾こんこんとしてたる」(無邊落木蕭蕭下、不盡長江滾滾來)とある。ウィキソース「登高」参照。
  • 漏雨 … 穴から漏れる雨。ここではやみかけて、まだ少し降っている雨のこと。なごりの雨。残雨。
  • 蒼苔 … 青々とした苔。翠苔。翠蘚。
一 雄渾 二 冲淡
三 繊穠 四 沈著
五 高古 六 典雅
七 洗煉 八 勁健
九 綺麗 十 自然
十一 含蓄 十二 豪放
十三 精神 十四 縝密
十五 疎野 十六 清奇
十七 委曲 十八 実境
十九 悲概 二十 形容
二十一 超詣 二十二 飄逸
二十三 曠達 二十四 流動