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夜雨寄北(李商隠)

夜雨寄北
夜雨やう きた
しょういん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻五百三十九、『唐詩三百首』七言絶句、『唐李義山詩集』巻六(『四部叢刊 初編集部』所収)、『李義山詩集』巻上(朱鶴齢箋注/沈厚塽輯評、台湾学生書局)、『玉谿生詩箋註』巻三(馮浩箋註、『四部備要 集部』所収)、『玉谿生詩詳註』巻二、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十八(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、65頁)、『唐詩品彙』巻五十三、『唐詩別裁集』巻二十、『唐人万首絶句選』巻六、他
  • 七言絶句。期・池・時(平声支韻)。
  • ウィキソース「夜雨寄北」「李義山詩集 (四部叢刊本)/卷第六」参照。
  • 詩題 … 夜の雨音に耳を傾けながら、北方にいる妻に書き送る。当時、作者は蜀(四川省)に滞在しており、妻を北方の長安に残して来ていた。『万首唐人絶句』では「夜雨寄内」に作る。内は、妻の異称。
  • 夜雨 … 夜降る雨。夜の雨音。
  • 北 … 北方にいる妻。長安を指す。また北堂(婦人のいる所)の意もある。
  • 寄 … 詩を人に託して送り届けること。「贈」は、詩を直接手渡すこと。
  • この詩は、作者が蜀(四川省)に滞在していたとき、長安にいる妻に書き送ったもの。宣宗の大中二年(848)の作。なお『箋註唐詩選』に「李、弘農尉たりし時の作」(李爲弘農尉時作)とあるのは誤り。弘農郡は河南省であり、弘農尉だったのは開成四年(839)の頃である。
  • 李商隠 … 813~858。晩唐の詩人。懐州だい(河南省沁陽しんよう県)の人。あざなは義山。号はぎょく谿けいせい。大和三年(829)、天平軍節度使だった令狐楚に才能を認められ、その幕下に入った。開成二年(837)、進士に及第。この年に令狐楚が死去し、令狐楚派と対立する王茂元の女婿となったため、両派閥の争いに巻き込まれ、官僚としては不遇のうちに終わった。杜牧・おん庭筠ていいんと並んで晩唐期を代表する詩人。また四六駢儷文の名手でもあった。『李義山詩集』三巻などがある。ウィキペディア【李商隠】参照。
君問歸期未有期
きみ 帰期ききうもいまらず
  • 君 … 作者の妻を指す。
  • 帰期 … 妻のもとへ帰る時期。
  • 未有期 … まだその時期はわからない。前漢の蘇武の「詩四首 其の三」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一・留別妻一首)に「行役こうえきせんじょうり、あいることいまらず」(行役在戰場、相見未有期)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」「留別妻」参照。
巴山夜雨漲秋池
ざん夜雨やう しゅうみなぎ
  • 巴山 … 陝西省西郷県の西南から三峡に及ぶ山脈。ここでは巴(重慶を中心とする四川省東南部一帯)の山々を指す。ちなみに「巴蜀」の「巴」は重慶一帯、「蜀」は成都一帯を指す。
  • 夜雨 … 夜に降る雨。
  • 秋池 … 秋の池。秋の雨が池いっぱいになっている様子。
  • 漲 … あふれるばかりに水かさが張っている様子。
何當共剪西窻燭
いつまさとも西窓せいそうしょくって
  • 何当 … 「何当いつか」と読んでもよい。いつになったら~だろう。張相『詩詞曲語辞匯釈』の「何當(一)」の条に「何當は、猶お何日と云うがごとし」(何當、猶云何日也)とある。
  • 共 … 君(妻)といっしょに。
  • 西窓 … 西向きの窓辺。また婦人の居室をいう。じゅういくの「長安しゅうせき」に「さくしょう西窓の夢、夢に入る荊南けいなんの道」(昨宵西窗夢、夢入荊南道)とある。ウィキソース「長安秋夕」参照。
  • 窓 … 『唐詩選』『万首唐人絶句』では「窻」に作る。『全唐詩』『四部備要本』『詳註本』『唐詩別裁集』では「窗」に作る。『四部叢刊本』『輯評本』『古今詩刪』『唐詩品彙』『唐人万首絶句選』では「牕」に作る。すべて異体字。
  • 燭 … ろうそくのしん、または油皿の灯心。
  • 剪 … はさみで切る。ここでは灯心を切って明るくすること。『箋註唐詩選』『万首唐人絶句』『唐人万首絶句選』では「翦」に作る。同義。
卻話巴山夜雨時
かえってざん夜雨やうときはなすべき
  • 却話巴山夜雨時 … (いつになったら)この巴山の夜の雨音を聞いている時のことを振り返り、今の思いを君に話すことができるのだろうか。
  • 却 … ふり返って。思い返して。張相『詩詞曲語辞匯釈』の「却(五)」の条に「却は、猶お返のごとし」(却、猶返也)とある。李白の「ちょうより下り、盧郎中を過ぎて旧遊を叙す」に「却って山海の事をかたれば、宛然として林壑りんがく存す」(却話山海事、宛然林壑存)とある。ウィキソース「朝下過盧郎中敘舊遊」参照。『箋註唐詩選』『全唐詩』『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「卻」に作る。異体字。
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巻七 七言絶句
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