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送盧起居(武元衡)

送盧起居
きょおく
元衡げんこう
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻三百十七、『武元衡集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、64頁)、『唐詩品彙』巻五十二、他
  • 七言絶句。輝・衣・歸(平声微韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷317」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』では「重ねて盧三十一起居を送る」(重送盧三十一起居)に作る。『唐五十家詩集本』では「重送盧三十一居」に作る。三十一は、排行(一族中の兄弟やいとこなどの年齢による序列)。また作者には「洛陽の諸公とともに盧起居をはなむけす」(同洛陽諸公餞盧起居)と題する五律がある。ウィキソース「全唐詩/卷316」参照。「重ねて」とは、先にこの五律を詠み、そのあとに追加して作られたのであろう。
  • 盧 … 姓。人物については不明。
  • 起居 … 官名。漢代は起居注。天子の側近に仕えて、その言行を記録する官。隋代には中書省に起居舎人が置かれ、唐代には門下省に起居郎、中書省に起居舎人の二官が置かれた。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、起居郎または起居舎人の職にあった盧某を見送って詠んだもの。
  • 武元衡 … 758~815。中唐の詩人。河南こう(河南省えん市の南)の人。あざな伯蒼はくそう。建中四年(783)、進士に及第。徳宗に才を認められ、華原県令・比部員外郎・右司郎中・御史中丞・太子右庶子を歴任した。憲宗が即位すると、戸部事郎に進み、元和二年(807)正月、門下侍郎・同中書門下平章事(宰相)に抜擢された。同年十月、宰相のまま剣南西川節度使に任ぜられ、蜀に赴いた。元和八年(813)、長安に戻され宰相の実務に復帰した。元和十年(815)六月三日未明、出勤のため靖安里の私邸を出てまもなく暗殺された。『武元衡集』三巻がある。ウィキペディア【武元衡】参照。
相如擁傳有光輝
しょうじょ でんようしてこう
  • 相如 … 前漢の文人、司馬相如。前179~前117。成都(四川省)の人。あざなちょうけい。辞賦にすぐれ、武帝に召されて「上林の賦」などを作り、漢魏六朝時代の文人の模範となった。夫人は卓文君で駆け落ちの話は有名。ウィキペディア【司馬相如】参照。
  • 擁伝 … 四頭立ての伝車に乗って。伝は、四頭立ての駅伝の馬車。擁は、抱きかかえる。取り囲む。ここでは伝車に乗ること。司馬相如が漢の武帝の命を受け、蜀の西方のえびす(西夷)と交渉するため、四乗(四台)の伝車を連ねて故郷の蜀へ帰った。そのとき蜀の太守以下が出迎え、県令が護送するという歓迎ぶりで、相如は故郷に錦を飾ることができたという故事を踏まえる。『史記』司馬相如伝に「相如曰く、きょうさくぜんぼうは、蜀に近く、道も亦た通じ易し。秦の時、嘗て通じて郡県と為すも、漢興るに至りてむ。今、誠に復た通じて為に郡県を置かば、南夷にまさらん、と。天子以て然りと為す。乃ち相如を拝してちゅうろうしょうと為し、節を建て往きて使いせしむ。副使は王然おうぜんじゅうこく呂越人りょえつじん、四乗の伝をせ、巴蜀の吏の幣物へいぶつに因りて、以て西夷にまいなう。蜀に至る。蜀の太守以下郊迎し、県令、弩矢どしを負いて先駆す。蜀人以て寵と為す」(相如曰、邛、筰、冄、駹者、近蜀、道亦易通。秦時嘗通爲郡縣、至漢興而罷。今誠復通爲置郡縣、愈於南夷。天子以爲然。乃拜相如爲中郎將、建節往使。副使王然於壺充國呂越人、馳四乘之傳、因巴蜀吏幣物、以賂西夷。至蜀。蜀太守以下郊迎、縣令負弩矢先驅。蜀人以爲寵)とある。ウィキソース「史記/卷117」参照。
  • 有光輝 … 光栄に満ちたものである。
  • 輝 … 『万首唐人絶句』では「暉」に作る。同義。
何事闌干淚溼衣
何事なにごとぞ 闌干らんかんとしてなみだころも湿うるお
  • 何事 … いったいどうしたことか。
  • 闌干 … 涙がしきりに流れ出る様子。畳韻の語。白居易「長恨歌」に「ぎょくよう寂寞せきばくとしてなみだ闌干らんかんたり、梨花りかいっはるあめぶ」(玉容寂寞淚闌干、梨花一枝春帶雨)とある。ウィキソース「長恨歌」参照。
  • 湿 … しっとりと濡らす。『唐五十家詩集本』『古今詩刪』『唐詩品彙』では「濕」に作る。本来は「溼」が旧字で「濕」が俗字。
舊府東山餘妓在
きゅう 東山とうざん 余妓よぎ
  • 旧府 … 元の役所。旧任地。洛陽を指す。『晋書』羊祜伝に「時にちょう官を喪えば、後人こうじん之をにくみて、多く旧府をかいす」(時長吏喪官、後人惡之、多毀壞舊府)とある。長吏は、地位の高い役人。ウィキソース「晉書/卷034」参照。
  • 東山 … 浙江省紹興市上虞区の西南に位置する。別名謝安山。晋の謝安が東山に隠棲したとき、いつも多くの妓女を従えて、行楽に耽ったという。『晋書』謝安伝に「安、情を丘壑にほしいままにすと雖も、然るに遊賞するごとに、必ず妓女を以て従わしむ」(安雖放情丘壑、然每遊賞、必以妓女從)とある。ウィキソース「晉書/卷079」参照。
  • 余妓 … 多くの妓女。餘は、『説文解字』巻五下、食部に「おおきなり」(饒也)とある。ウィキソース「說文解字/05」参照。
重將歌舞送君歸
かさねて歌舞かぶってきみかえるをおくらん
  • 重 … もう一度。
  • 歌舞 … (妓女の)歌と舞。歌い舞うこと。
  • 将 … 「~をもって」と読み、「~によって」と訳す。「以」に同じ。
  • 送君帰 … 君が故郷へ帰るのを見送ることとしよう。
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