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蜀中九日(王勃)

蜀中九日
蜀中しょくちゅうきゅうじつ
王勃おうぼつ
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻五十六、『王子安集』巻三(『四部叢刊 初編集部』所収)、『王勃集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『王勃集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『王勃集』巻下・延享四年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、25頁、略称:延享刊本)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十一(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『文苑英華』巻一百五十八、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、53頁)、『唐詩品彙』巻四十六、『唐詩別裁集』巻十九、『搜玉小集』、他
  • 七言絶句。臺・杯・來(平声灰韻)。
  • ウィキソース「蜀中九日」「王子安集 (四部叢刊本)/卷第三」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』には、題下に「紀事には邵大震に和するに作る。一に蜀中の九日、玄武山に登りてりょちょうすに作る」(紀事作和邵大震。一作蜀中九日、登玄武山旅眺)とある。『四部叢刊本』では「蜀中九日登玄武山旅眺」に作る。『唐詩別裁集』では「九日登高」に作る。『搜玉小集』では「九日升高」に作る。玄武山は、今の四川省中江県の東にある山。『元和郡県図志』剣南道下、しゅうの条に「玄武山は、県の東二里に在り。山より竜骨をいだす」(玄武山、在縣東二里。山出龍骨)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷33」参照。
  • 蜀中 … 蜀の地のうち。蜀は、四川省地方の別称。中は、場所を表す名詞。ウィキペディア【四川省】参照。
  • 九日 … 陰暦九月九日、重陽の節句。
  • この詩は、作者が陰暦九月九日、重陽の節句の日に、蜀の地で玄武山に登り、望郷台で宴席に加わって旅立つ人を見送ったとき、郷愁を感じて詠んだもの。玄武山には邵大震・盧照鄰とともに登り、詩を唱和したらしい。『唐詩紀事』巻八、邵大震の条に「九日玄武山に登りて旅眺すに云う、九月九日遥空を望めば、秋水秋天夕風せきふう生ず。寒雁一向ひたすら南に飛ぶこと遠く、遊人幾たびかわたる菊花の叢と。盧照隣和して云う、九月九日山川を眺むれば、帰心帰望風煙積む。他郷共に酌む金花の酒、万里同じく悲しむ鴻雁の天と。玄武山は今の東蜀に在り。高宗の時、王勃は鶏に檄する文を以て、沛王の府を斥出せらる。既に廃され、剣南に客たりて、玄武山に遊んで詩を賦する有り。照隣は新都の尉たり、大震は其の同時の人なり。勃の詩に云う、九月九日望郷台、他席他郷客を送る杯。人いま已に南中の苦を厭う、鴻雁那ぞ北地より来ると」(九日登玄武山旅眺云、九月九日望遙空、秋水秋天生夕風。寒鴈一向南飛遠、遊人幾度菊花叢。盧照隣和云、九月九日眺山川、歸心歸望積風煙。他郷共酌金花酒、萬里同悲鴻鴈天。玄武山在今東蜀。髙宗時、王勃以檄鷄文、斥出沛王府。既廢、客劒南、有遊玄武山賦詩。照隣爲新都尉、大震其同時人也。勃詩云、九月九日望郷臺、他席他郷送客杯。人今已厭南中苦、鴻鴈那從北地來)とある。ウィキソース「唐詩紀事 (四庫全書本)/卷08」参照。
  • 王勃 … 650~676。初唐の詩人。こうしゅう竜門(山西省しん県)の人。あざなあん。王績の兄である王通(おうとう・おうつう、文中子)の孫。乾封元年(666)、ゆう(唐代の科挙の科目名)の挙に及第。朝散郎を授けられた。南海を舟で渡る途中、溺死した。初唐四傑(王勃・楊炯・盧照鄰・駱賓王)の一人に数えられる。『王子安集』十六巻がある。ウィキペディア【王勃】参照。
九月九日望郷臺
がつここの ぼうきょうだい
  • 九月九日 … 「きゅうげつきゅうじつ」と読んでもよい。重陽の節句。この日のならわしとして、小高い丘に登り、茱萸を髪にかざし、菊の花を浮かべた酒を飲むなどして一年の厄払いをする習慣があった。菊の節句。
  • 望郷台 … 玄武山(蜀の東部にあるという)にある高台の名。あるいは隋の蜀王、楊秀が築いた四川省成都の北部にあった高台をいう。または固有名詞ではなく、「きょうを望む台」と読む程度なのかもしれない。
他席他郷送客杯
せききょう かくおくさかずき
  • 他席他郷 … 異郷の地での宴席。「他郷他席」を平仄の関係から言い換えている。他席の他に深い意味はない。『唐詩選』では「佗席佗郷」に作る。同義。
  • 送客杯 … 「かくおくるのはい」とも読む。
  • 杯 … 『前唐十二家詩本』『延享刊本』『搜玉小集』では「盃」に作る。『万首唐人絶句』では「桮」に作る。ともに異体字。
人情已厭南中苦
にんじょう すでいとう なんちゅう
  • 人情 … 私の気持ち。作者自身の情を指す。王讚の「雑詩」(『文選』巻二十九)に「人情は旧郷をおもい、かくちょうは故林を思う」(人情懷舊鄉、客鳥思故林)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。『文苑英華』では「今日」に作る。
  • 情 … 『全唐詩』には「一作今」とある。『唐詩別裁集』『万首唐人絶句』『搜玉小集』では「今」に作る。『四部叢刊本』では「今」に作り、「一作情」とある。
  • 已厭 … もうあきあきしている。
  • 南中 … 南の土地。南の地方。ここでは蜀の地を指す。
  • 苦 … ここでは味気なさ。つまらなさ。
鴻鴈那從北地來
鴻鴈こうがん なんほくよりきた
  • 鴻鴈 … がん。鴻は、がんの中で最も大きい。『礼記』がつりょう篇に「もうしゅんつき、……東風とうふうとうき、ちっちゅうはじめてるい、うおこおりのぼり、だつうおまつり、鴻雁こうがんきたる」(孟春之月、……東風解凍、蟄蟲始振、魚上冰、獺祭魚、鴻鴈來)とある。孟春は、春の初め。初春。孟は、初めの意。蟄虫は、冬ごもりしている虫のこと。獺は、かわうそ。獺祭だっさいは、かわうそが獲った魚を食べる前に並べておくこと。ウィキソース「禮記/月令」参照。
  • 鴻 … 『全唐詩』には「一作鳴」とある。
  • 鴈 … 『全唐詩』『唐詩別裁集』『搜玉小集』では「雁」に作る。同義。
  • 那 … 「なんぞ」と読む。どうして。
  • 北地 … 北の地方。作者の故郷の山西省、または都の長安を指す。
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北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
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