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公子行 (劉希夷) (廷芝)

公子行
こうこう
りゅう希夷きいてい
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻二、『全唐詩』巻八十二、他
  • 七言古詩。水・子・裏(上声紙韻)/砂・霞・花・家(平声麻韻)/香・傍・粧・鴦・王(平声陽韻)/羨・見・面(去声霰韻)/親・身・新・塵(平声真韻)、換韻。
  • ウィキソース「公子行 (劉希夷)」参照。
  • 公子行 … 貴公子の歌。楽府題。新楽府。公子は、貴公子。行は、歌・曲の意。
  • 劉廷芝 … 劉希夷きい。651~679?。盛唐の詩人。あざなは庭芝、または廷芝。一説に名は庭芝、字が希夷とも。ウィキペディア【劉希夷】参照。
天津橋下陽春水
天津てんしんきょう ようしゅんみず
  • 天津橋下 … 天津橋の下には。
  • 天津橋 … 洛陽城の西南にあって、洛水に架けられた橋。
  • 陽春水 … うららかな春の水が流れている。
天津橋上繁華子
天津てんしんきょうじょう はん
  • 天津橋上 … 天津橋の上には。
  • 繁華子 … 華やかな生活をしている貴公子。今を時めく貴公子。「繁華」は「栄華」に同じ。
馬聲廻合靑雲外
せい廻合かいごうす 青雲せいうんそと
  • 馬声 … 彼らの乗った馬のいななき。
  • 廻合 … ぐるぐるめぐりながら一つになる。
  • 廻 … 『全唐詩』では「迴」に作る。同義。
  • 青雲外 … 青空の彼方。
人影動搖綠波裏
人影じんえい揺動ようどうす りょくうち
  • 人影 … 人の影。
  • 揺動 … 揺れ動く。『全唐詩』では「動揺」に作る。
  • 緑波裏 … 緑の波間にうつって。
綠波淸迥玉爲砂
りょく清迥せいけい たますな
  • 緑波 … 緑の波。
  • 清迥 … 澄んでどこまでも続く。『全唐詩』では「蕩漾」に作る。「蕩漾」は、水が揺れ動くさま。
  • 玉為砂 … 川底の砂は玉を敷いたようである。
靑雲離披錦作霞
青雲せいうん離披りひ にしきかすみ
  • 青雲 … 青空。
  • 離披 … 四方に散り広がる。
  • 錦作霞 … 霞が錦のように照り映えている。「霞」は、朝焼け、または夕焼けの雲を指す。
可憐楊柳傷心樹
あわれむようりゅう しょうしん
  • 可憐 … 深い感動を表す言葉。ああ。
  • 楊柳 … 柳の総称。楊は、カワヤナギ。柳は、シダレヤナギ。
  • 傷心 … 心を傷ましめる。
可憐桃李斷腸花
あわれむとう だんちょうはな
  • 桃李 … 桃とスモモ。
  • 断腸 … はらわたがちぎれる。非常に悲しいさま。非常に悩ましいさま。
此日遨遊邀美女
 遨遊ごうゆう じょむか
  • 遨遊 … 気ままに遊ぶこと。
  • 美女 … 娼妓を指す。
  • 邀 … 呼び迎える。招く。
此時歌舞入娼家
とき 歌舞かぶ しょう
  • 歌舞 … 歌舞に興じるために。
  • 入娼家 … 遊女の家へくり込む。
娼家美女鬱金香
しょうじょ 鬱金香うっこんこう
  • 鬱金香 … 鬱金うっこんの香り。鬱金は、西域産の香草の名。『唐会要』雑録の条に「(貞観)二十一年、……伽毘国、鬱金香を献ず。葉は麦門冬ばくもんとうに似て、九月に花開き、かたちは芙蓉の如し。其の色、紫碧。香り数十歩聞こゆ。華ひらきて実ならず。えんと欲すれば其の根を取る」(二十一年、……伽毘國獻鬱金香。葉似麥門冬、九月花開、狀如芙蓉。其色紫碧。香聞數十步。華而不實。欲種取其根)とある。ウィキソース「唐會要/卷100」参照。また『本草綱目』草部、芳草類、鬱金の項に「鬱金は蜀地及び西戎に生じ、苗はきょうに似て黄、花は白く質は紅く、末秋に茎心を出だすも実無し」(鬱金生蜀地及西戎、苗似薑黃、花白質紅、末秋出莖心而無實)とある。ウィキソース「本草綱目/草之三」参照。なお、「鬱金」を「郁金」に作るのは、「郁」が「鬱」の簡体字のため。
飛去飛來公子傍
きたる こうかたわら
  • 飛去飛来 … 美女がひょいと離れたり、ひょいと近寄って来たりする。『全唐詩』では「飛来飛去」に作る。
  • 公子傍 … 貴公子のそば。
的的朱簾白日映
的的てきてきたる朱簾しゅれん 白日はくじつ
  • 的的 … 明るくきらきら輝いている様子。
  • 朱簾 … 朱塗りのすだれ。『全唐詩』では「珠簾」に作る。こちらは、真珠を飾ったすだれ。
  • 白日映 … 日光に照り映えている。
娥娥玉顏紅粉粧
娥娥ががたるぎょくがん 紅粉こうふんよそお
  • 娥娥 … 女性の姿の美しいさま。
  • 玉顔 … 女性の美しい顔。
  • 紅粉 … べに白粉おしろい
  • 粧 … 化粧をしてよそおうこと。『全唐詩』では「妝」に作る。
  • この句は、「古詩十九首」(『文選』巻二十九、『古詩源』巻四 漢詩)の第二首に「盈盈えいえいたりろうじょうおんな皎皎こうこうとして窓牖そうゆうあたる。娥娥ががたり紅粉こうふんよそおい、繊繊せんせんとしてしゅいだす」(盈盈樓上女、皎皎當窗牖。娥娥紅粉妝、纖纖出素手)とあるのに基づく。ウィキソース「青青河畔草 (古詩)」参照。
花際徘徊雙蛺蝶
さい徘徊はいかいす そう蛺蝶きょうちょう
  • 花際 … 庭に咲く花の辺り。
  • 徘徊 … ここでは飛び回る。『全唐詩』では「裴回」に作る。
  • 双蛺蝶 … 二匹の蝶。「蛺蝶」は、あげは蝶。また、蝶の仲間の総称。
池邊顧步兩鴛鴦
へん顧歩こほす りょう鴛鴦えんおう
  • 池辺 … 池のほとり。
  • 顧歩 … あちこちを振り返りながら歩く。
  • 両鴛鴦 … つがいの鴛鴦おしどり
傾國傾城漢武帝
くにかたむしろかたむく かんてい
  • 傾国傾城 … 自分の城を危うくし、国を危うくするほどの絶世の美女の形容。
  • 漢武帝 … その美女を愛した漢の武帝。武帝は、前漢の第七代皇帝。姓名は劉徹。前156~前87。在位前141~前87。儒教を国教化、中央集権制を確立し、漢王朝の最盛期をもたらした。また、匈奴を征伐し、西域・安南・朝鮮を征服した。ウィキペディア【武帝 (漢)】参照。
爲雲爲雨楚襄王
くもあめる じょうおう
  • 為雲為雨 … 男女が契りを結ぶこと。そうぎょくの「高唐の賦」(『文選』巻十九)に見える故事に基づく。楚の襄王が宋玉と雲夢うんぼうの離宮に遊び、高唐の楼観を眺めた。楼観の上にだけ雲が湧き起こっており、襄王は宋玉に「あれはどういう気であるか」と尋ね、宋玉は説明して、「これがいわゆる朝雲です。先王の懐王が高唐の楼観に遊ばれた時、疲れて昼寝をされていると、夢の中で神女が現れ、契りを結ばれました。神女は帰りがけに、『自分はざんの神女で、朝は雲に、夕方は雨になります』と告げました。懐王が朝起きて巫山を見ると言葉通りに雲が湧き起こっていました。そこで懐王は神女のために廟を建て、朝雲廟と名付けられました」と言ったという。ウィキソース「高唐賦」参照。
  • 楚襄王 … 楚のけいじょうおうのこと。懐王の子。屈原を放逐したことで知られる。在位前299~前263。ウィキペディア【頃襄王 (楚)】参照。
古來容光人所羨
らい 容光ようこうひとうらやところ
  • 古来 … 昔から。
  • 容光 … 美しい顔かたち。
  • 人所羨 … 誰もが慕うもの。「羨」は、ここでは「うらやましがる」ではなく、「慕う」の意。
況復今日遙相見
いわんや今日こんにちはるかにあいるをや
  • 況復 … そのうえに。まして。さらに加えて。「復」は、ここでは「況」を強調する助字。
  • 遥 … 歌舞の席で一定の距離があることを示す。
  • 相見 … 美しい女性に巡りあえようとは。
願作輕羅著細腰
ねがわくはけいりて細腰さいようかん
  • 願 … 「ねがわくは~ん」と読み、「願うところは」「できることなら」「どうか~したい」と訳す。自らの願望の意を示す。魏の曹植の「雑詩六首 其の三」(『文選』巻二十九)に「願わくは南流のかげと為り、光をせて我が君をまみえん」(願爲南流景、馳光見我君)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また南朝梁の呉均の「りゅううんと相贈答する六首 其の三」(『玉台新詠』巻六)に「願わくは春風を逐うて去り、ひょうとうとして遼西に至らん」(願逐春風去、飄蕩至遼西)とある。ウィキソース「與柳惲相贈答」参照。
  • 軽羅 … 軽いうすぎぬ。
  • 著細腰 … 細い腰にまといつきたい。
願爲明鏡分嬌面
ねがわくはめいきょうりてきょうめんわかたん
  • 明鏡 … 曇りのない鏡。
  • 分嬌面 … 美しく、かわいらしい顔。
  • 分 … 分けてもらいたい。
與君相向轉相親
きみあいかいてうたあいしたしみ
  • 与 … 「~と」と読み、「~と」と訳す。対象の意を示す。
  • 相向 … さし向かいでいると。
  • 転 … だんだんと。ますます。
  • 相親 … 親しい仲となる。親しみが募ってくる。
與君雙棲共一身
きみならみて一身いっしんともにせん
  • 双棲 … 夫婦となって一緒に住む。
  • 共一身 … 一心同体となる。
願作貞松千歲古
ねがわくはていしょう千歳せんざいふるきとらん
  • 願作貞松千歳古 … どうかあの千年を経たみさお正しい松となって、いつまでも変わらぬ愛情を交わしたい。
  • 貞松 … 操正しい松。松は冬になっても色が変わらないところから、貞操が正しい人に喩える。
誰論芳槿一朝新
たれろんぜん 芳槿ほうきんいっちょうあらたなるを
  • 誰論 … 誰が問題にしましょう。問題じゃない。お話にならない。
  • 芳槿 … むくげの花。花は朝開いて夕方にはしぼむので、移ろいやすいことや、はかないことに喩える。
  • 一朝新 … 一朝ひとあさで新しく生えてくるような、浮いた話。
百年同謝西山日
ひゃくねんおなじくしゃす 西山せいざん
  • 百年 … 百年の寿命が尽きたら。
  • 同謝 … 一緒にいとまを告げる。一緒に辞去する。死ぬこと。
  • 西山日 … 西山に沈む太陽。
千秋萬古北邙塵
せんしゅうばん 北邙ほくぼうちり
  • 千秋万古 … 千年も万年も。「千秋」は、千年。転じて、長い年月。「万古」は、大昔から今に至るまで。永遠。
  • 北邙塵 … 北邙山の塵となって、添い遂げましょう。「北邙」は、洛陽の北にある山。古くから墓地として有名。
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