李衛公問対 巻上〔五〕
巻上〔五〕
太宗曰、分合爲變者、奇正安在。
太宗曰く、「分合して変をなす者は、奇正いずくにある」。
靖曰、善用兵者、無不正、無不奇、使敵莫測。故正亦勝、奇亦勝。三軍之士、止知其勝、莫知其所以勝。非變而能通、安能至是哉。分合所出、唯孫武能之。呉起而下、莫可及焉。
靖曰く、「善く兵を用うる者は、正ならざるなく、奇ならざるなく、敵をして測るなからしむ。ゆえに正なるもまた勝ち、奇なるもまた勝つ。三軍の士は、止その勝つことを知り、その勝つゆえんを知るなし。変じてよく通ずるにあらずんば、安んぞよくここに至らんや。分合の出ずるところ、ただ孫武これをよくす。呉起より下は、及ぶべきなし」。
太宗曰、呉術若何。
太宗曰く、「呉の術はいかん」。
靖曰、臣請略言之。魏武侯問呉起兩軍相向。起曰、使賤而勇者前撃。鋒始交而北。北而勿罰。觀敵進取。一坐一起、奔北不追、則敵有謀矣。若悉衆追北、行止縱横、此敵人不才。撃之勿疑。臣謂呉術大率多類此。非孫武所謂以正合也。
靖曰く、「臣請う略しこれを言わん。魏の武侯、呉起に、両軍相向かうことを問う。起曰く、賤にして勇ある者をして前み撃たしむ。鋒、始めて交えて北ぐ。北ぐるも罰することなかれ。敵の進取を観るべし。一たびは坐し一たびは起ち、奔り北ぐるをも追わざるは、すなわち敵に謀あり。もし衆を悉くして北ぐるを追い、行止縦横なるは、これ敵人不才なり。これを撃ちて疑うことなかれ。臣謂えらく、呉の術、大率多くこれに類す。孫武のいわゆる正をもって合するにあらざるなり」。
- 類此 … 底本では「此類」に作るが、『直解』に従い改めた。
太宗曰、卿舅韓擒虎甞言、卿可與論孫呉。亦奇正之謂乎。
太宗曰く、「卿の舅、韓擒虎、かつて言えり、卿はともに孫呉を論ずべし、と。また奇正の謂か」。
靖曰、擒虎安知奇正之極。但以奇爲奇、以正爲正爾。曽未知奇正相變循環無窮者也。
靖曰く、「擒虎安んぞ奇正の極を知らん。ただ奇をもって奇となし、正をもって正となすのみ。かつていまだ奇正の相変じ、循環して窮まりなきものを知らざるなり」。