李衛公問対 卷上〔三〕
卷上〔三〕
太宗曰、凡兵却、皆謂之奇乎。靖曰、不然。夫兵却、旗參差而不齊、鼓大小而不應、令喧嚻而不一、此眞敗者也。非奇也。若旗齊鼓應、號令如一、紛紛紜紜、雖退走、非敗也。必有奇也。法曰、佯北勿追。又曰、能而示之不能。皆奇之謂也。
太宗曰く、「およそ兵の却くは、みなこれを奇と謂うか」。靖曰く、「然らず。それ兵却くとき、旗、参差にして斉しからず、鼓、大小にして応ぜず、令、喧囂にして一ならざるは、これ真に敗るる者なり。奇にあらざるなり。もし旗斉しく鼓応じ、号令一のごときは、紛紛紜紜として、退き走るといえども、敗るるにあらざるなり。必ず奇あるなり。法に曰く、佯って北ぐるは追うことなかれ、と。また曰く、よくすれども、これによくせざるを示すと。みな奇の謂なり」。
- 者 … 底本では「却」に作るが、『直解』に従い改めた。
太宗曰、霍邑之戰、右軍少却、其天乎。老生被擒、其人乎。靖曰、若非正兵變爲奇、奇兵變爲正、則安能勝哉。故善用兵者、奇正在人而已。變而神之。所以推乎天也。太宗俛首。
太宗曰く、「霍邑の戦いに、右軍少しく却きしは、それ天なるか。老生の擒にせられしは、それ人なるか」。靖曰く、「もし正兵変じて奇となり、奇兵変じて正となるにあらずんば、すなわちいずくんぞよく勝たんや。ゆえによく兵を用うる者は、奇正は人にあるのみ。変じてこれを神にす。天に推すゆえんなり」。太宗俛首す。