李衛公問対 卷上〔二〕
卷上〔二〕
太宗曰、朕破宋老生、初交鋒、義師少却。朕親以鐵騎自南原馳下、横突之。老生兵斷後、大潰。遂擒之。此正兵乎、奇兵乎。
太宗曰く、「朕、宋老生を破りしとき、初めて鋒を交えて、義師少しく却く。朕、みずから鉄騎をもって南原より馳せ下りて、横ざまにこれを突く。老生の兵、後を断たれて、大いに潰ゆ。ついにこれを擒にせり。これ正兵か奇兵か」。
靖曰、陛下天縱聖武、非學而能。臣按、兵法自黄帝以來、先正而後奇、先仁義而後權譎。且霍邑之戰、師以義舉者、正也。建成墜馬、右軍少却者、奇也。
靖曰く、「陛下は天縦聖武、学ぶにあらずしてよくす。臣、按ずるに、兵法は黄帝より以来、正を先にし奇を後にし、仁義を先にし権譎を後にす。かつ霍邑の戦いに、師、義をもって挙げしは正なり。建成馬より墜ちて、右軍少しく却きしは奇なり」。
- 按 … 底本では「案」に作るが、『直解』に従い改めた。
太宗曰、彼時少却、幾敗大事。曷謂奇邪。
太宗曰く、「かのときに少しく却きしは、ほとんど大事を敗らんとせり。なんぞ奇と謂うか」。
靖曰、凡兵以前向爲正、後却爲奇。且右軍不却、則老生安致之來哉。法曰、利而誘之、亂而取之。老生不知兵。恃勇急進、不意斷後、見擒於陛下。此所謂以奇爲正也。
靖曰く、「およそ兵は前向をもって正となし、後却を奇となす。かつ右軍却かずんば、すなわち老生いずくんぞこれが来たるを致さんや。法に曰く、利してこれを誘い、乱してこれを取る、と。老生兵を知らず。勇を恃み急に進み、後を断たるるを意わずして、陛下に擒にせらる。これいわゆる奇をもって正となすなり」。
太宗曰、霍去病暗與孫呉合。誠有是夫。當右軍之却也、高祖失色。及朕奮撃、反爲我利。孫呉暗合。卿實知言。
太宗曰く、「霍去病、暗に孫呉と合す。誠にこれあるかな。右軍の却くに当って、高祖色を失う。朕が奮撃するに及んで、反ってわが利となれり。孫呉と暗に合す。卿、実に言を知れり」。
- 右 … 底本では「石」に作るが、『直解』に従い改めた。