鼓腹撃壌

鼓（こ）腹（ふく）撃（げき）壌（じょう）

出典：『十八史略』巻一・五帝・帝堯陶唐氏（国立国会図書館デジタルコレクション「十八史畧一」参照）
解釈：生活が安楽で、世の中の太平を楽しむこと。堯（ぎょう）の時代に、一老人が腹つづみを打ち、大地をたたいて歌い、太平の世と堯の徳をたたえたという故事から。

十八史略 … 七巻。元の曾（そう）先（せん）之（し）撰。『史記』から『新五代史』までの十七の正史に、宋代の史書を加えて十八史とし、その概要を編年体でまとめたもの。史料的価値はほとんどないが、我が国では初学者のための入門書として広く読まれており、特に江戸時代には『論語』『唐詩選』とともに、初学者の必読書とされた。ウィキペディア【十八史略】参照。

帝堯陶唐氏、伊祁姓。或曰、名放勛。帝嚳子也。

帝（てい）堯（ぎょう）陶唐（とうとう）氏（し）は、伊祁（いき）姓（せい）なり。或（ある）いは曰（いわ）く、名（な）は放勛（ほうくん）と。帝嚳（ていこく）の子（こ）なり。

帝堯陶唐氏 … 古代の伝説上の聖天子。名は放勲。帝堯は諡（おくりな）。嚳（こく）の子。初め陶に封ぜられたが、後に唐に封ぜられたので陶唐氏と号した。五帝の一人。舜を後継者として皇帝の位を譲った。ウィキペディア【堯】参照。
帝嚳 … 古代の伝説上の聖天子。名は夋（しゅん）。堯の父。黄帝の曾孫（そうそん）。顓（せん）頊（ぎょく）によって辛（しん）の地に封ぜられたので高辛氏と号した。五帝の一人。ウィキペディア【嚳】参照。

其仁如天、其知如神。

其（そ）の仁（じん）は天（てん）の如（ごと）く、其（そ）の知（ち）は神（かみ）の如（ごと）し。

其仁如天 … その仁徳は天のように大きい。
其知如神 … その知恵は神のように霊妙不可思議である。

就之如日、望之如雲。

之（これ）に就（つ）けば日（ひ）の如（ごと）く、之（これ）を望（のぞ）めば雲（くも）の如（ごと）し。

就之如日 … 堯に近づいて接すると太陽のように暖かい。「之」は堯を指す。
望之如雲 … 堯を遠くから眺めると（恵みの雨をもたらす）雲のようである。「之」は堯を指す。

都平陽。

平陽（へいよう）に都（みやこ）す。

平陽 … 地名。今の山西省臨汾市堯都区。ウィキペディア【堯都区】参照。
都 … 都に定める。

茆茨不翦、土階三等。

茆（ぼう）茨（し）は翦（き）らず、土（ど）階（かい）三等（さんとう）のみ。

茆茨 … 茅（かや）葺（ぶ）き屋根。
翦 … 端を切りそろえる。「剪」も同じ。
土階 … 土で作った階段。
三等 … 三段。

有草生庭。十五日以前、日生一葉、以後日落一葉。月小盡、則一葉厭而不落。名曰蓂莢。觀之以知旬朔。

草（くさ）有（あ）り庭（にわ）に生（しょう）ず。十（じゅう）五（ご）日（にち）以（い）前（ぜん）は、日（ひ）に一葉（いちよう）を生（しょう）じ、以後（いご）は日（ひ）に一葉（いちよう）を落（おと）す。月（つき）小（しょう）にして尽（つ）くれば、則（すなわ）ち一葉（いちよう）厭（あま）りて落（お）ちず。名（な）づけて蓂（めい）莢（きょう）と曰（い）う。之（これ）を観（み）て以（もっ）て旬（じゅん）朔（さく）を知（し）る。

月小 … 二十九日しかない月。
蓂莢 … 伝説上の、めでたい草の名。月の一日から十五日までは毎日一葉を生じ、十六日から晦（みそ）日（か）までは一葉を落とす。それによって暦を作ったという。暦（こよみ）草（ぐさ）。
旬朔 … 十日間。または一か月。「旬」は、十日。「朔」は、ついたち。

治天下五十年。

天（てん）下（か）を治（おさ）むること五（ご）十（じゅう）年（ねん）。

不知天下治歟、不治歟、億兆願戴己歟、不願戴己歟。

天（てん）下（か）治（おさ）まるか、治（おさ）まらざるか、億（おく）兆（ちょう）己（おのれ）を戴（いただ）くことを願（ねが）うか、己（おのれ）を戴（いただ）くことを願（ねが）わざるかを知（し）らず。

億兆 … 多くの人民。万民。
戴己 … 万民が自分を天子として推戴（すいたい）すること。
歟 … 「～か」と読み、「～だろうか」と訳す。文末につけて疑問の意を表す。多くは「與」（与）で代用する。

問左右不知。

左（さ）右（ゆう）に問（と）うに知（し）らず。

左右 … 左右に仕える臣下。近臣。側近。

問外朝不知。

外（がい）朝（ちょう）に問（と）うに知（し）らず。

外朝 … 表（おもて）御殿に出仕する役人。「外朝」は、天子が表向きの政治をとる朝廷の御殿。

問在野不知。

在（ざい）野（や）に問（と）うに知（し）らず。

在野 … 民間人。

乃微服遊於康衢。

乃（すなわ）ち微（び）服（ふく）して康（こう）衢（く）に遊（あそ）ぶ。

微服 … 身分の高い人が人目につかないように粗末な服装をすること。しのび姿。
康衢 … 賑やかな大通り。
遊 … 出かけて行く。ぶらつく。

聞童謠曰、

童謡（どうよう）を聞（き）くに曰（いわ）く、

童謡 … （子どもたちの歌う）わらべ歌。

立我烝民　莫匪爾極

我（わ）が烝（じょう）民（みん）を立（た）つるは　爾（なんじ）の極（きょく）に匪（あら）ざる莫（な）し

烝民 … 民衆。人民。
立 … 生計を立てる。
爾 … 堯を指す。
極 … 中正至極の徳。
莫匪 … 「～にあらざるはなし」と読み、「～でないものはない」と訳す。二重否定。「匪」は「非」と同じ。「無非～」と同じ。

不識不知　順帝之則

識（し）らず知（し）らず　帝（てい）の則（のり）に順（したが）うと

不識不知 … 知らず知らずのうちに。
帝之則 … 天子の示すお手本。

有老人、含哺鼓腹、撃壤而歌曰、

老人（ろうじん）有（あ）り、哺（ほ）を含（ふく）み腹（はら）を鼓（こ）し、壌（じょう）を撃（う）ちて歌（うた）いて曰（いわ）く、

含哺 … 口の中に食べ物を含むこと。「哺」は口中の食べ物。
鼓腹 … 腹つづみを打つ。食が足りて満足するさま。
撃壌 … 大地をたたいて拍子をとる。「壌」は地面の意。また、「壌」は土製の楽器、遊戯の具などの説がある。

日出而作　日入而息

日（ひ）出（い）でて作（な）し　日（ひ）入（い）りて息（いこ）う

作 … 野良（のら）仕事をする。
息 … 家に帰って休む。

鑿井而飮　耕田而食

井（い）を鑿（うが）ちて飲（の）み　田（た）を耕（たがや）して食（くら）う

鑿井 … 井戸を掘る。

帝力何有於我哉

帝力（ていりょく）何（なん）ぞ我（われ）に有（あ）らんやと

帝力 … 帝王の威力。天子様の力。帝のおかげ。
何有於我哉 … どうして私に関係があるだろうか、いや、関係ない。
何～哉 … 「なんぞ～んや」と読み、「どうして～か、いや、～ない」と訳す。反語の意を表す。

こちらもオススメ！

あ行	か行	さ行
た行	な行	は行
ま行	や行	ら行・わ
論語の名言名句