黔驢の技
黔驢の技
- 〔出典〕 『柳河東集』巻十九・弔贊箴戒・三戒・黔之驢
- 〔解釈〕 自分の技量が劣っていることを自覚せずに恥をかくこと。
黔無驢。有好事者。船載以入至則無可用。放之山下。虎見之尨然大物也。以爲神。蔽林間窺之。稍出近之、憖憖然莫相知。
黔に驢無し。事を好む者有り。船載して以て入り至れば則ち用う可き無し。之を山下に放つ。虎之を見るに尨然として大物なり。以て神と為す。林間に蔽れて之を窺う。稍出でて之に近づくに、憖憖然として相知る莫し。
他日驢一鳴。虎大駭遠遁、以爲且噬已也。甚恐。然往來視之覺無異能者。益習其聲、又近出前後、終不敢搏。稍近益狎蕩倚衝冒。驢不勝怒蹄之。虎因喜計之曰、技止此耳。因跳踉大闞斷其喉盡其肉乃去。
他日驢一たび鳴く。虎大いに駭きて遠く遁れて、以為えらく且に已を噬まんとす。甚だ恐る。然れども往来して之を視るに異能無き者に覚ゆ。益其の声に習れ、又近づきて前後に出ずれども、終に敢えて搏たず。稍近づきて益狎れて蕩倚衝冒す。驢、怒りに勝えずして之を蹄る。虎因りて喜びて之を計りて曰く、技此に止まるのみ、と。因りて跳踉大闞して其の喉を断ち、其の肉を尽くして乃ち去る。
噫、形之尨也、類有德、聲之宏也、類有能。向不出其技、虎雖猛疑畏卒不敢取。今若是焉。悲夫。
噫、形の尨なるや、有徳に類し、声の宏なるや、有能に類す。向し其の技を出ださざれば、虎猛しと雖も疑い畏れて卒に敢えて取らざらん。今、是くの若し。悲しきかな。