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陽貨第十七 12  子曰色厲而内荏章

446(17-12)
子曰、色厲而内荏、譬諸小人、其猶穿窬之盜也與。
いわく、いろはげしくしてうちやわらかなるは、これしょうじんたとうれば、穿せんとうのごときか。
現代語訳
  • 先生 ――「見かけがきつくて中のヤワなのは、下等な人間にたとえると、まあ忍びこみのコソドロだろうかね。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「うわべばかりえらそうにかまえていて内心きょうれんの人物は、これを細民さいみんにたとえてみると、平気な顔をしながら内心ビクビクものコソコソどろぼうのようなものじゃ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「見かけだけはいかにもいかめしくして、内心ぐにゃぐにゃしている人は、これを下層民の場合でいうと、壁をぶち破ったり、塀を乗りこえたりしながら、びくびくしている泥棒のようなものであろうか」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 色 … 容貌。うわべ。
  • 厲 … 「れいにして」とも訓読する。はげしい。きびしい。威厳がある。
  • 内 … 内心。
  • 荏 … 「じんなるは」とも訓読する。柔らか。怯弱きょうじゃく。意思が弱い。だらしがない。
  • 小人 … ここでは貧しい庶民。下層階級の人。
  • 穿窬之盗 … 壁を破り塀を越えて忍び込む、こそ泥。「穿」は、壁に穴をあけること。「窬」は、垣根を乗り越えること。
補説
  • 『注疏』に「此の章は時人の体と情と反するをにくむなり」(此章疾時人體與情反也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 色厲而内荏 … 『集解』に引く孔安国の注に「荏は、柔なり。外自らきょうれいにして内自らじゅうねいなる者を謂う」(荏、柔也。謂外自矜厲而内自柔佞者)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「厲は、矜正なり。荏は、柔佞なり。言うこころは人に顔色外に矜正にして、心内に柔佞なる者有るなり」(厲、矜正也。荏、柔佞也。言人有顏色矜正於外、而心柔佞於内者也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「厲は、きょうそうなり。荏は、柔佞なり」(厲、矜莊也。荏、柔佞也)とある。また『集注』に「厲は、威厳なり。荏は、柔弱なり」(厲、威嚴也。荏、柔弱也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 譬諸小人、其猶穿窬之盗也与 … 『集解』に引く孔安国の注に「人とり此くの如きは、猶お小人の盗心有るがごとし。穿は、壁を穿うがつ。窬は、かきを之れゆるなり」(爲人如此、猶小人之有盜心。穿、穿壁。窬、窬牆之也)とある。また『義疏』に「此れ色厲にして内荘と為すを譬えと作すなり。言うこころは其の譬えは小人偸盗を為す時の如きなり。小人盗を為すに、或いは人の屋壁を穿ち、或いは人の垣牆を踰ゆ。比の時に当たりてや、外形恒に進みて物を取るを為さんと欲す。而して心恒に人を畏れ、常に退走の路を懐う。是れ形進み心退き、内外相そむく。色外矜正にして心内柔佞なる者の如きなり」(此爲色厲内莊作譬也。言其譬如小人爲偸盜之時也。小人爲盜、或穿人屋壁、或踰人垣牆。當比之時、外形恒欲進爲取物。而心恒畏人、常懷退走之路。是形進心退、内外相乖。如色外矜正而心内柔佞者也)とある。また『注疏』に「穿は、壁を穿ち、窬は、牆を窬ゆるなり。言うこころは外は自ら矜厲にして、内は柔佞なる、人と為り此くの如きは、之を譬えば猶お小人の外は正を持すと雖も、内は常に壁を穿ち牆を窬ゆる窃盗の心有るがごときか」(穿、穿壁、窬、窬牆也。言外自矜厲、而内柔佞、爲人如此、譬之猶小人外雖持正、内常有穿壁窬牆竊盜之心也與)とある。また『集注』に「小人は、細民なり。穿は、壁を穿つ。窬は、牆を踰ゆ。其の実無く名を盗みて、常に人の知るを畏るるを言うなり」(小人、細民也。穿、穿壁。窬、踰牆。言其無實盜名、而常畏人知也)とある。細民は、貧しい庶民、下層階級の人。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れくらいに在る者の為に言う。蓋し色は温ならんことを欲し、心は剛ならんことを欲す。而れども上の下に於ける、必ず其の顔色を荘にして以て之に臨みて、内或いは溺るる所有れば、則ち人の之を知らんことを畏る。豈にじざる可けんや」(此爲在位者言。蓋色欲温、心欲剛。而上之於下、必莊其顏色以臨之、而内或有所溺焉、則畏人之知之。豈可不赧乎)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「いろれいにしてうちじん、是れ色を主として言う。色そうにして内そうならざるを謂うなり。心と言わずして内と言う。故に其の色を主として言うを知るなり。仁斎乃ち色は温ならんことを欲し心は剛ならんことを欲すと謂う。謬りなるかな。剛は誠に美徳なり。然れども剛を好めども学を好まざれば、其の蔽や狂なり。未だ古え心は剛ならんことを欲するの言有るを聞かず。仁斎は辞にくらくして是の言を造る。豈に理学の弊に非ずや」(色厲而内荏、是主色而言。謂色莊而内不莊也。不言心而言内。故知其主色而言也。仁齋乃謂色欲溫心欲剛。謬哉。剛誠美德。然好剛而不好學、其蔽也狂。未聞古有心欲剛之言焉。仁齋昧乎辭而造是言。豈非理學之弊乎)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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