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季氏第十六 7 孔子曰君子有三戒章

427(16-07)
孔子曰、君子有三戒。少之時、血氣未定、戒之在色。及其壯也、血氣方剛、戒之在鬪。及其老也、血氣既衰、戒之在得。
こういわく、くん三戒さんかいり。わかときは、けっいまさだまらず、これいましむることいろり。そうなるにおよびてや、けっまさごうなり、これいましむることとうり。いるにおよびてや、けっすでおとろう、これいましむることるにり。
現代語訳
  • 孔先生 ――「人間は三つの用心がいる。若いころには、体力が不安定だから、性欲に用心する。壮年になると、体力が張りきっているから、ケンカを用心する。年をとると、体力がおとろえているから、欲ばりを用心する。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子の申すよう、「君子たるべき者に三つの警戒すべきことがあります。青年期には血気定まらず感情を制し得ぬ故、警戒すべきはにょしょくであります。中年期は血気さかんな時代故、警戒すべきは闘争であります。老年期にはいると、血気がおとろえてその代りかんじょうだかくなる故、警戒すべきは欲心よくしんであります。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「君子に戒むべきことが三つある。青年時代の血気がまだ定まらないころに戒むべきは性慾である。壮年時代の血気が最も盛んなころに戒むべきは闘争である。老年時代の血気がおとろえるころに戒むべきは利慾である」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 君子 … 徳の高い立派な人。人格者。反対は小人。
  • 三戒 … 三つの戒め。三つの気をつけなければならないこと。
  • 少 … 三十歳以前。
  • 血気 … 激しやすい意気。盛んな意気。血の
  • 未定 … まだ安定しない。
  • 未 … 「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。
  • 色 … 色欲。
  • 壮 … 壮年。三、四十歳。
  • 也 … 「や」と読み、強調する意を示す。
  • 方 … 「まさに」と読み、「ちょうど~する最中だ」「まさしく今」と訳す。
  • 剛 … 強く盛んである。
  • 闘 … 争い。喧嘩。
  • 老 … 五十歳以上。
  • 得 … 欲得。利欲。貪欲。
補説
  • 『注疏』に「此の章は君子の人、わかきより老に及ぶまで、三種の戒慎の事有るを言うなり」(此章言君子之人、自少及老、有三種戒愼之事也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君子有三戒 … 『義疏』に「君子は自ら戒む。其の事三有り。故に三戒有りと云うなり」(君子自戒。其事有三。故云有三戒也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 少之時、血気未定、戒之在色 … 『義疏』に「一の戒なり。少は、三十以前を謂うなり。の時血気猶お自ら薄少にして、過欲す可からず。過欲は則ち自ら損するを為す。故に之を戒むるなり」(一戒也。少、謂三十以前也。爾時血氣猶自薄少、不可過欲。過欲則爲自損。故戒之也)とある。また『注疏』に「少は、人の年二十九以下を謂う。血気猶お弱く、筋骨未だ定まらず。色を貪らば則ち自ら損う。故に之を戒む」(少、謂人年二十九以下。血氣猶弱、筋骨未定。貪色則自損。故戒之)とある。また『集注』に「血気は、形の待ちて以て生ずる所の者、血は陰にして気は陽なり」(血氣、形之所待以生者、血陰而氣陽也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 及其壮也、血気方剛、戒之在闘 … 『義疏』に「二の戒なり。壮は、三十以上を謂うなり。礼に、三十壮にして室を為す、と。故に復た色を戒めざるなり。但だ年歯已に壮んにして、血気方に剛し。性力雄猛にして、与に譲る所無く、好んで闘を為す有り。故に之を戒むるなり」(二戒也。壯、謂三十以上也。禮、三十壯而爲室。故不復戒色也。但年齒已壯、血氣方剛。性力雄猛有無所與讓好爲鬪。故戒之也)とある。また『注疏』に「壮は、気力まさに剛強に当たり、争闘を喜ぶを謂う、故に之を戒む」(壯、謂氣力方當剛強、喜於爭鬪、故戒之)とある。
  • 及其老也、血気既衰、戒之在得 … 『集解』に引く孔安国の注に「得は、得るを貪るなり」(得、貪得也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「三の戒なり。老は、年五十以上を謂うなり。年五十始めて衰う。復た闘争の勢い無し。而して之を戒むること得るに在るなり。得は、得るを貪るなり。老人貪を好む。故に之を戒むるなり。老人貪を好む所以は、夫れ年少をば春夏にかたどる、春夏を陽と為す、陽の法施を主とす、故に少年は明なり。年老をば秋冬に象る、秋冬を陰と為す、陰の体はおさかくす、故にろうは歛聚多貪なることを好むなり」(三戒也。老、謂年五十以上也。年五十始衰。無復鬪争之勢。而戒之在得也。得、貪得也。老人好貪。故戒之也。老人所以好貪者、夫年少象春夏、春夏爲陽、陽法主施、故少年明怡也。年老象秋冬、秋冬爲陰、陰體歛藏、故老耆好歛聚多貪也)とある。また『注疏』に「老は、五十以上を謂う。得は、得るを貪るを謂う。血気既に衰え、多く聚斂を好む、故に之を戒む」(老、謂五十以上。得、謂貪得。血氣既衰、多好聚斂、故戒之)とある。また『集注』に「得は、得るを貪るなり。時に随いて戒むるを知り、理を以て之に勝てば、則ち血気の使う所と為らざるなり」(得、貪得也。隨時知戒、以理勝之、則不爲血氣所使也)とある。
  • 『集注』に引く范祖禹の注に「聖人の人に同じき者は、血気なり。人に異なる者は、志気なり。血気時として衰うること有れども、志気は則ち時として衰うること無きなり。わかくして未だ定まらず、壮にして剛く、老いて衰うるは、血気なり。色を戒め、闘を戒め、得るを戒むる者は、志気なり。君子は其の志気を養う。故に血気の動かす所と為らず。ここを以て年弥〻いよいよ高くして徳弥〻たかきなり」(聖人同於人者、血氣也。異於人者、志氣也。血氣有時而衰、志氣則無時而衰也。少未定、壯而剛、老而衰者、血氣也。戒於色、戒於鬪、戒於得者、志氣也。君子養其志氣。故不爲血氣所動。是以年彌高而德彌邵也)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此の三者は、学者終身の大戒なり。夫れ人生の血気は、時に従いて変ぜざること能わざれば、則ち又た当に時に従いて警戒を存せざる可からざるべし。蓋し血気は身に在りて、之を戒むることは則ち心に在りとは、其の自ら血気に任す可からざるを言うなり」(此三者、學者終身之大戒也。夫人生血氣、不能不從時而變、則又當不可不從時而存警戒。蓋血氣在身、而戒之則在心、言其不可自任血氣也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「君子に三戒有り、聖人と雖も亦た然り。聖人は達磨に非ず、豈に漠然として木石ぼくせきごとくならんや。故に君子に三戒有りと曰う。君子と言う所以の者は、上下に通ずるなり。朱子曰く、理を以て之に勝つ、と。范氏曰く、其の志気を養う、と。皆先王の道を知らず。書に曰く、礼を以て心を制す、と。是れ先王の教えなり」(君子有三戒、雖聖人亦然。聖人非達磨、豈漠然若木石哉。故曰君子有三戒。所以言君子者、通上下也。朱子曰、以理勝之。范氏曰、養其志氣。皆不知先王之道矣。書曰、以禮制心。是先王之教也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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