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衛霊公第十五 30 子曰吾嘗終日不食章

409(15-30)
子曰、吾嘗終日不食、終夜不寢、以思。無益。不如學也。
いわく、われかつしゅうじつくらわず、しゅうねず、もっおもう。えきし。まなぶにかざるなり。
現代語訳
  • 先生 ――「わしはいつか昼も飯もくわず、夜も眠らないで考えた。ダメだった。勉強するのがましだ。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「わしは前方まえかた、一日飯も食わず、一晩マンジリともせずに考えたが、得るところがなかった。学ぶに限る。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「私は、かつて、一日中飯も食わず、一晩中眠りもしないで思索にふけったことがあった。しかしなんの得るところもなかった。やはり学ぶにこしたことはない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 嘗 … 「かつて」と読む。「以前~したことがある」「以前~していた」と訳す。
  • 終日 … 一日じゅう。
  • 食 … 「くらう」と読む。食べる。
  • 終夜 … 一晩じゅう。
  • 寝 … 「いぬ」と読む。寝る。
  • 不如 … 「~にしかず」と読む。「~に及ばない」「~の方がよい」と訳す。比較する言い方。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人に学ぶことを勧むるなり」(此章勸人學也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集解』には、この章の注なし。
  • 吾嘗終日不食、終夜不寝、以思。無益。不如学也 … 『義疏』に「人に学を勧むるなり。終は、猶お竟のごときなり。寝は、眠なり。言うこころは我嘗てきょうじつしゅうせきくらわず眠らず、以て天下の理を思う。唯だ学のみ人を益す。余事は皆益無し。故に云う、学ぶに如かざるなり、と。郭象曰く、聖人はいつわり教うる無し。而して云う、ねずくらわず、以て思うとは何ぞや。夫れ思いて而る後に通じ、習いて而る後に能くする者は、百姓皆然るなり。聖人事無くして百姓と事を同じうせず。事同じければ則ち形同じうす。是を以て形を見て以て己と為す。唯だ故に聖人も亦た必ず勤思して力学するを謂う。此れ百姓の情なり。故に其の情を用いて以て之を教う。則ち聖人の教えは、彼に因りて以て彼を教う。安くんぞいつわけんや、と」(勸人學也。終、猶竟也。寢、眠也。言我嘗竟日終夕不食不眠、以思天下之理。唯學益人。餘事皆無益。故云、不如學也。郭象曰、聖人無詭教。而云、不寢不食以思者何。夫思而後通、習而後能者、百姓皆然也。聖人無事而不與百姓同事。事同則形同。是以見形以爲己。唯故謂聖人亦必勤思而力學。此百姓之情也。故用其情以教之。則聖人之教、因彼以教彼。安容詭哉)とある。竟日は、一日じゅう。終日。終夕は、ひと晩じゅう。夜どおし。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「此れ思いて学ばざる者のために之を言う。蓋し心を労して以て必ず求むるは、志をそんして自ら得るにかざるなり」(此爲思而不學者言之。蓋勞心以必求、不如遜志而自得也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く李郁の注に「夫子は思いて学ばざる者に非ず。だ語を垂れて以て人を教うるのみ」(夫子非思而不學者。特垂語以教人爾)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ聖人学問の益を言いて、以て人に示すなり。蓋し思いて之を得るは、学びて之を得るの速やかにして且つ安きに如かず。凡そ物必ず成法有り。此に就きて損益すれば、則ち其の長短高下、皆一挙して定まる可し。何をか成法と謂う、聖賢の行う所是れなり。若し成法を棄てて、徒爾とじとして思惟せば、則ち力をくし思いを焦がすと雖も、労して成ること無し。故に曰く、知を好めども学を好まざるは、則ち其の蔽やとうなり、と」(此聖人言學問之益、以示人也。蓋思而得之、不如學而得之之速且安焉。凡物必有成法。就此損益、則其長短高下、皆可一舉而定。何謂成法、聖賢之所行是也。若棄成法、徒爾思惟、則雖殫力焦思、勞而無成。故曰、好知而不好學、則其蔽也蕩)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「学ぶとは、先王の道を学ぶなり。先王の道は、堯舜より文武に至るまで、数千載を、衆聖の知巧を積みて之を為す所にして、孔子は聖なりと雖も、一人の知、一日の力を以てしては、豈に能く之を得んや。故に孔子云うことしかり。後儒之を知らず、特に語をれて以て人に教うるのみと謂うは、非なり」(學、學先王之道也。先王之道、堯舜至文武、歴數千載、衆聖所積知巧爲之、孔子雖聖、以一人之知、一日之力、而豈能得之哉。故孔子云爾。後儒不知之、謂特垂語以教人爾、非也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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