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郷党第十 13 君賜食章

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君賜食、必正席先嘗之。君賜腥、必熟而薦之。君賜生、必畜之。侍食於君、君祭先飯。疾、君視之、東首加朝服、拖紳。君命召、不俟駕行矣。
きみしょくたまえば、かならせきただしてこれむ。きみせいたまえば、かならじゅくしてこれすすむ。きみせいたまえば、かならこれう。きみしょくするに、きみまつればはんす。むとき、きみこれれば、東首とうしゅしてちょうふくくわえ、しんく。きみめいじてせば、たずしてく。
現代語訳
  • 殿からお料理をたまわると、しき物にちゃんとすわって自分がまずいただく。なま肉をたまわると、かならず煮て先祖にそなえる。生きものをたまわると、かならず飼っておく。お相伴のときには、殿のおそなえがすむと、お毒見をする。病気で、殿が見舞われると、東まくらにして、礼服をかけ、かざり帯をのせる。およびだしがあると、馬車を待たずに歩きだす。(がえり善雄『論語新訳』)
  • 君がお料理をくださると、必ず席を正しくしてさっそくちょうだいする。君が生肉をくださると、必ずてまず祖先の霊にそなえる。君が生きた動物をくださると、必ずそれを飼っておく。君のごしょうばんをするとき、君が食前の祭をされる間に、まずお毒味をする。病気のとき君が見舞に来られると、東枕ひがしまくらにねて君が南面なさるようにし、礼服を寝具の上にかけ、束帯そくたいをその上に引く。家にるとき君のおめしがあると、馬車の用意ができるのを待たずに出かける。(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 君公から料理を賜わると、必ず席を正し、まずみずからそれをいただかれ、あとを家人にわけられる。君公から生肉を賜わると、それを調理して、まず先祖の霊に供えられる。君公から生きた動物を賜わると、必ずそれを飼っておかれる。君公に陪食を仰せつかると、君公が食前の祭をされている間に、必ず毒味をされる。病気の時、君公の見舞をうけると、東を枕にし、寝具に礼服をかけ、その上に束帯をおかれる。君公のお召しがあると、車馬の用意をまたないでお出かけになる。(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 君賜食 … 君主から食べ物が下賜される。
  • 正席 … 居住まいを正す。
  • 嘗 … 食べる。
  • 腥 … 生肉。
  • 熟 … 煮る。
  • 薦 … 先祖の霊に供える。
  • 生 … 生きた動物。牛・豚・羊など。
  • 畜 … 飼う。
  • 侍食 … 陪食する。
  • 祭 … 食べ物の一部をお初穂として膳の端へ取り分け、神々に供える。
  • 先飯 … 君主より先に毒見のために食べる。
  • 疾 … 病気。
  • 君視之 … 君主が見舞いに来る。
  • 東首 … 東枕に寝る。
  • 朝服 … 礼服。
  • 紳 … 礼装用の太い帯。大帯。
  • 拖 … ひく。横たえる。長くのばして置く。
  • 不俟駕 … 馬車の用意ができるのを待たないで。「駕」は、馬車の用意をすること。「俟」は、待つ。
補説
  • 『注疏』では「君賜食」から「君祭先飯」を本章とし、「此れ孔子君の賜食を受くる及び侍食の礼を明らかにするなり」(此明孔子受君賜食及侍食之禮也)とある。また「疾、君視之、東首加朝服、拖紳」を次章とし、「此れ孔子に疾有りて、君来たり之を視る時を明らかにするなり」(此明孔子有疾、君來視之時也)とある。さらに「君命召、不俟駕行矣」をそのまた次の章とし、「此れ孔子の急ぎ君命にはしるを明らかにするなり」(此明孔子急趨君命也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君賜食、必正席先嘗之 … 『集解』に引く孔安国の注に「君の恵に敬するなり。既に之をむれば、乃ち以て之を班賜するなり」(敬君之惠也。旣嘗之、乃以班賜之也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「席は、猶お坐のごときなり。君、孔子に食を賜う。孔子食をたしなまずと雖も、必ず坐を正しくして先ず之を嘗む。君の恵に敬するなり」(席、猶坐也。君賜孔子食。孔子雖不嗜食、必正坐先嘗之。敬君之惠也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「君熟食を以て己に賜うときは、必ず席を正して坐し、品を先にして之を嘗め、君の恵を敬うを謂うなり。君賜は必ず多く、君の恵を留む可からず、既に嘗むれば、当に以て賜をわかつべし」(謂君以熟食賜己、必正席而坐、先品嘗之、敬君之惠也。君賜必多、不可留君之惠、既嘗、當以班賜)とある。また『集注』に「食は或いはしゅんなるを恐る。故に以て薦めず。席を正しくして先ず嘗むは、君に対するが如きなり。先ず嘗むと言えば、則ち余は当に以て頒賜すべし」(食恐或餕餘。故不以薦。正席先嘗、如對君也。言先嘗、則餘當以頒賜矣)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君賜腥、必熟而薦之 … 『集解』に引く孔安国の注に「薦は、其の先祖にすすむるなり」(薦、薦其先祖也)とある。また『義疏』に「君、孔子に腥肉を賜うを謂うなり。薦は宗廟に薦むなり。孔子之を受け、煮熟して宗廟に薦む。重ねて君の賜を栄するなり。熟するを賜うとき薦めざるは、熟はけがるると為すなり」(謂君賜孔子腥肉也。薦薦宗廟也。孔子受之、煮熟而薦宗廟。重榮君賜也。賜熟食不薦者、熟爲褻也)とある。また『注疏』に「君己に生肉を賜うときは、必ず烹熟して其の先祖に薦め、君賜を栄とするを謂うなり。熟食を薦めざるは、けがせばなり」(謂君賜己生肉、必烹熟而薦其先祖、榮君賜也。熟食不薦者、褻也)とある。また『集注』に「腥は、生肉。熟して之を祖考に薦むるは、君の賜を栄とするなり」(腥、生肉。熟而薦之祖考、榮君賜也)とある。
  • 君賜生、必畜之 … 『義疏』に「生は、活物を謂うなり。賜る所の活物を得れば、当に之を養畜すべし。祭祀に至る時を待ちて牲用に充つるなり」(生、謂活物也。得所賜活物、當養畜之。待至祭祀時充牲用也)とある。また『注疏』に「君己に牲の未だ殺さざる者を賜うときは、必ず之を畜養し、以て祭祀の用を待つを謂うなり」(謂君賜己牲之未殺者、必畜養之、以待祭祀之用也)とある。また『集注』に「之を畜うとは、君の恵に仁するなり。故無くして敢えて殺さざるなり」(畜之者、仁君之惠。無故不敢殺也)とある。
  • 侍食於君、君祭先飯 … 『集解』に引く鄭玄の注に「君の祭に於いては則ち先ず飯す。為に先ず食を嘗むるが若くするも、然るなり」(於君祭則先飯矣。若爲先嘗食、然也)とある。また『義疏』に「孔子君に侍して共に食する時を謂うなり。祭は、祭食の物を謂うなり。夫れ礼は、食するには必ず先ず食を取り、種種の片子を出だして俎豆の辺地に置く。名づけて祭と為す。祭とは、昔初めて此の食を造る者に報ずるなり。君子恵を得れば報ゆるを忘れず。故に将に食せんとして先ず報を出だすなり。君政に祭に之を食する時に当たりて、臣先ず飯を取りて之を食らう。故に云う、先ず飯す、と。飯は、なり。然る所以の者は、君の為に先ず嘗食しょうしょくし、先ず調和の是非を知るを示すなり」(謂孔子侍君共食時也。祭、謂祭食之物也。夫禮、食必先取食、種種出片子置俎豆邊地。名爲祭。祭者、報昔初造此食者也。君子得惠不忘報。故將食而先出報也。當君政祭食之時、而臣先取飯食之。故云、先飯。飯、食也。所以然者、示爲君先嘗食、先知調和之是非也)とある。嘗食は、毒見。また『注疏』に「君己を召して食を共にする時、君の祭時に於いては、則ち先ずみ、君の為に嘗食するが若くしかするを謂う」(謂君召己共食時也、於君祭時、則先飯矣、若爲君嘗食然)とある。また『集注』に「周礼に、王は日に一たび挙す、膳夫祭を授け、品ごとに嘗食して、王乃ち食らう、と。故に侍食する者は、君祭れば、則ち己は祭らずして先飯すること、君の為に嘗食するが若く然り。敢えて客礼に当たらざるなり」(周禮、王日一舉、膳夫授祭、品嘗食、王乃食。故侍食者、君祭、則己不祭而先飯、若爲君嘗食然。不敢當客禮也)とある。
  • 疾、君視之、東首加朝服、拖紳 … 『集解』に引く包咸の注に「夫子むや、南牖の下に処り、東首して、其の朝服を加え、紳をく。紳は、大帯なり。敢えて朝服をずして君にまみえざるなり」(夫子疾也、處南牖之下、東首、加其朝服、拖紳。紳、大帶。不敢不衣朝服見君也)とある。また『義疏』に「疾は、孔子疾病の時を謂うなり。孔子病して魯君来たりて之を視るなり。此の君は是れ哀公なり。病者は生を欲す。東は是れ生陽の気なり。故に眠るに東に首するなり。故に玉藻に云う、君子の居は恒に戸に当たり、寝ぬるときは恒に東首すとは、是なり、と。加は、覆うなり。朝服は、健時に君に従うの日、視朝の服を謂うなり。拖は、猶お牽なるがごとし。紳は、大帯なり。孔子既に病して復た之を着る能わず。而れども君に見ゆるに宜しく私服すべからず。故に朝服を加えて体の上に覆い、而して大帯を心下に牽引し足に至る。健時衣を着くるが如く之れ為すなり」(疾、謂孔子疾病時也。孔子病而魯君來視之也。此君是哀公也。病者欲生。東是生陽之氣。故眠首東也。故玉藻云、君子之居恆當于戸、寢恆東首者、是也。加、覆也。朝服、謂健時從君日視朝之服也。拖、猶牽也。紳、大帶也。孔子旣病不能復着之。而見君不宜私服。故加朝服覆於體上、而牽引大帶於心下至足。如健時着衣之爲也)とある。また『注疏』に「拖は、加なり。紳は、大帯なり。病む者は、常に北牖の下に居るも、君の来たり視るが為に、則ち暫時遷りて南牖の下にかいて首を東にし、君をして南面して之を視るを得しむ。病臥して朝服及び大帯を衣ること能わず、又た敢えて朝服を衣て君にまみえざるにあらざるを以て、故に但だ朝服を身に加え、又た大帯を上に加うるは、是れ礼なり」(拖、加也。紳、大帶也。病者、常居北牖下、爲君來視、則暫時遷郷南牖下東首、令君得南面而視之。以病臥不能衣朝服及大帶、又不敢不衣朝服見君、故但加朝服於身、又加大帶於上、是禮也)とある。また『集注』に「東首は、以て生気を受くるなり。病みて臥すれば、衣を著け帯を束ぬること能わず、又た䙝服せっぷくを以て君にまみゆ可からず。故に朝服を身に加え、又た大帯を上に引くなり」(東首、以受生氣也。病臥不能著衣束帶、又不可以䙝服見君。故加朝服於身、又引大帶於上也)とある。
  • 君命召、不俟駕行矣 … 『集解』に引く鄭玄の注に「急ぎ君命にはしるなり。行き出でて車既に駕従するなり」(急趨君命也。行出而車旣駕從也)とある。また『義疏』に「君命ずること有りて、孔子を召見する時を謂うなり。君は尊く命は重し。故に召を得て駕車を俟たずして、即ち徒趨して以て往くなり。故に玉藻に曰く、君命じて召すに三節を以てす。一節は以て趨る。二節は以て走る。宮に在りてはを俟たず。家に在りては車を俟たずとは、是れなり」(謂君有命召見孔子時也。君尊命重。故得召不俟駕車而即徒趨而以往也。故玉藻曰、君命召以三節。一節以趨。二節以走。在宮不俟屨。在家不俟車、是也)とある。また『注疏』に「俟は、猶お待のごときなり。君命じて己を召すとき、車に駕するを待たずして即ち行き出で、車は駕を当てて之に随うを謂うなり」(俟、猶待也。謂君命召己、不待駕車而即行出、車當駕而隨之也)とある。また『集注』に「急に君命に趨く。行き出でて駕車之に随う」(急趨君命。行出而駕車隨之)とある。
  • 『集注』に「此の一節は、孔子の君に事うるの礼を記す」(此一節、記孔子事君之禮)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』はこの章と次の第十四章を一章(第十章)と見做し、「右は孔子を受け、及び微物と雖も、必ず祭るの誠意を記す」(右記孔子受胙、及雖微物、必祭之誠意)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「君生を賜うときは必ず之を畜す、やしなって以てせいと為すなり。……邢疏に、必ず之を畜養し、以て祭祀の用を待つなり、と。之を得たり。朱註に、之を畜する者は君の恵を仁ありとす、と。孟子の觳觫こくそく、仏氏の慈悲、其の肺腸にしょうするかな。……やまいするとき、君之を視るときは、東首す。……朱註に曰く、東首は以て生気を受くるなり、と。果たして其の説の是なるか、則ち君視ずと雖も当にしかるべし。……是れ寝ぬるに必ず東首する者は礼なり。君来たって之を視る、故に其の礼を正しうす、やまいに関するに非ざるなり。……所謂生気に首する者は、漢儒が好んで五行の失を言うなり」(君賜生必畜之、畜以爲牲也。……邢疏、必畜養之、以待祭祀之用也。得之。朱註、畜之者仁君之惠。孟子觳觫、佛氏慈悲、浹其肺腸哉。……疾、君視之、東首。……朱註曰、東首以受生氣也。果其説之是乎、則雖君不視當爾。……是寢必東首者禮也。君來視之、故正其禮、非關疾也。……所謂首生氣者、漢儒好言五行之失也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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八佾第三 里仁第四
公冶長第五 雍也第六
述而第七 泰伯第八
子罕第九 郷党第十
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子路第十三 憲問第十四
衛霊公第十五 季氏第十六
陽貨第十七 微子第十八
子張第十九 堯曰第二十