應感章第十六
〔応感章第十七〕(古文)
子曰、昔者、明王事父孝、故事天明。
子曰、昔者、明王事父孝、故事天明。
子曰く、昔者、明王父に事えて孝、故に天に事えて明なり。
- この章は、明王が天地の神々に仕えれば、神々が感応して現れ、ご加護を得られると説き、また宗廟において誠意をもって先祖の霊を祀れば、鬼神が感応して現れると説いている。
- 応感 … 応じ感ぜしむる。「感応」に同じ。心が物事に反応して何かを感じること。
- 古文では「応感章第十七」に作る。
- 昔者 … 以前。むかし。「者」の読みが省略されるので、二字で「むかし」と読む。「者」は時を示す語に添える助字。「今者」なども同様。
- 明王 … 明徳の王。賢い王。聡明な王。聖王。
- 事父孝 … 父に仕えて、よく孝行された。
- 事天明 … 天の神に仕えても、明らかに敬意をもって祀られた。
事母孝、故事地察。
母に事えて孝、故に地に事えて察なり。
- 事母孝 … 母に仕えて、よく孝行された。
- 事地察 … 地の神に仕えても、察らかに敬意をもって祀られた。
- 察 … 「明」に同じ。明らか。
長幼順、故上下治。
長幼順なり、故に上下治まる。
- 長幼順 … 家族内では、長幼の序をよく守られた。
- 長幼 … 年上の者と年下の者。
- 上下治 … 社会において、上下の関係がよく治まった。
- 上下 … 上位者と下位者。君主と臣下。目上の人と目下の人。
天地明察、神明彰矣。
天地明察なれば、神明彰わる。
- 天地明察 … 天地の神々に仕えるのに、察らかに敬意を尽くされたので。
- 神明彰矣 … 天地の神々が感応して現れ、ご加護を授けられる。
- 神明 … 天地の神々。古文では「鬼神」に作る。
- 彰 … 感応して現出する。古文では「章」に作る。
故雖天子、必有尊也。
故に天子と雖も必ず尊有るなり。
- 雖天子 … たとえ天子のような身分の高いお方にでも。
- 必有尊也 … 必ず尊敬すべき人がいるものである。
言有父也。
父有るを言うなり。
- 言有父也 … それは父の兄弟、すなわち伯父(叔父)たちが存在することをいうのである。『御注』には「父は諸父を謂う」(父謂諸父)とある。「諸父」は、父の兄弟たちの意。また、そのまま父親と解釈する説もある。
必有先也。
必ず先有るなり。
- 必有先也 … 必ず年長者として敬わなければならない人がいるものである。
言有兄也。
兄有るを言うなり。
- 言有兄也 … 一族の諸兄が存在することをいうのである。古文では「兄」の後ろに「必有長」の三字があるが、衍字(文章の中に誤って入っている余計な文字)と思われる。
宗廟致敬、不忘親也。
宗廟に敬を致せば、親を忘れざるなり。
- 宗廟致敬 … 廟に敬意を尽くしてお祀りするのは。
- 宗廟 … 祖先の霊を祀った建物。廟。
- 不忘親也 … 亡き親を片時も忘れないためである。
脩身愼行、恐辱先也。
身を修め行いを慎むは、先を辱めんことを恐るるなり。
- 修身慎行 … 自分の身を修め、行いを慎むのは。
- 恐辱先也 … 先祖の名を汚さないかと恐れるからである。
宗廟致敬、鬼神著矣。
宗廟に敬を致せば、鬼神著る。
- 宗廟致敬 … 廟に敬意を尽くしてお祀りすると。
- 鬼神著矣 … 先祖の霊が感応して現れてくれる。
孝悌之至、通於神明、光于四海、無所不通。
孝悌の至りは、神明に通じ、四海に光ち、通ぜざる所無し。
- 孝悌之至 … 父と兄とに誠意をもって仕えることが極まれば。
- 悌 … 古文では「弟」に作る。
- 通於神明 … 天地の神々に通じる。「神明」は、天地の神々。
- 光于四海 … 四方の海の果てまでも、その徳の光が充ち広がっている。
- 四海 … 四方の海。天下。世の中。世界中。
- 于 … 古文では「於」に作る。
- 光 … ここでは「みつ」と読む。充ちわたる。充ち溢れる。
- 無所不通 … 行き渡らない所がない。あまねく及ぶこと。
- 通 … 古文では「曁」に作る。こちらは「およぶ」と読む。
- 無 … 古文では「亡」に作る。
詩云、自西自東、自南自北、無思不服。
詩に云う、西より東より、南より北より、思いて服せざる無し、と。
- 詩 … 『詩経』大雅・文王有声篇の一節。ウィキソース「詩經/文王有聲」参照。
- 自西自東、自南自北 … 西から東から、南から北から。四方から。古文では「自東自西、自南自北」に作る。
- 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。時間・場所などの起点を示す。
- 無思不服 … 有徳の君主を思い慕って、服従しない者はいない。
- 思 … 思い慕う。
- 服 … 服従する。心服する。帰服する。
- 無 … 古文では「亡」に作る。
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